酒にはあまり詳しくはないが、今のところはラム酒がお気に入りだ。わけは単純で、初めて買ったお酒がラム酒だったからだ。Appleton Estate 12というラムだった。

しかし初めからおいしかったわけではない。最初は舌が痺れて味もわからず、ただ煙たい香りが口に充満するだけだった。

その味がわかるようになってきたのは、とあるのん兵衛2人のおかげである。

このAppleton、少しお高いラム酒だが、どうも美味さがわからない。そこでこの酒をネットで調べてみると、この酒の紹介動画を見つけたのだ。 飲む前から酔っぱらいさながらのこの2人は、飲んでからも味や香りの聞き分けを高テンションでまくしたてた。 彼ら曰く、この酒を楽しむには舌を肥やす(develop the palette)必要があるらしい。 まだ全然ラムの良さがわからないが、このおっちゃん達はとても美味そうに飲む。 彼らのパレットの色合いは豊かであるに違いない。

せっかくいい酒を買ったんだ、ここはひとつ酒の美味さのわかる男になってやろうと、それから毎晩ちょびっとショットグラスに入れて飲み続けた。 けれども旨さはわからない。舌と喉へのエタノールの刺激が強く、ほかの感覚がぼやけてしまうのだ。水で薄めればよいのだろうけど、それは損した気分になる。 それでもあのおっちゃん達は美味そうに飲んでいたのだ。私にもそのうち美味さがわかるだろう。 そうして日々飲み続けているうちに、いつの間にかそれを克服する方法が見つかっていた。

酒を口に含んでしばらくそのままにしておき、舌が慣れてきたと感じて初めて飲み込むのだ。 そうすることで、ラム酒の味がわかり、飲み込んだ後には芳醇な香りが残る。こうして樽の香りを存分に感じれるのだ。

それからラム酒を何本か買うようになって、気づいたことがあった。 体たらくの私はよくコップを机に何日も放置するのだが、なんとなくおいしく感じるラム酒ほどコップの残り香が芳しく感じたのだ。 さらに、ビンから注ぎたてのラム酒に比べても、このコップの残り香のほうが上品ないい香りを放つのである。 ワインや日本酒では同じようにはならなった。これはラム酒だけの特別なおまけなのだ。体たらくもたまには役に立つ。

ところで、最初にこのラム酒を選んだ理由は酒の色とビンの形が気に入ったのと、名前にAppleとあるからあっさりとしているのかという浅はかな考えからだった(実際にそんなことはなかった)。

買った時期にはとても全部は飲みきれないだろうと思っていたが、今見てみるといつの間にかほとんど無くなっている。 洋酒はビンやラベルのデザインが凝っていて、中のお酒が無くなると用済みになってしまうのがなんとも寂しく、最後のひとつぎを出し切ってしまうのがためらわれるこの頃である。

watermelon